タキイ種苗 190年の歩みと未来への挑戦

特販部長 兼 資材部長 松本様
- 1. 190年続く“信頼”の物語
- 2. 桃太郎トマトとヒマワリ――挑戦が生んだ革新
- 3. 伝統と最先端を融合する研究開発
- 4. 妥協なき品質管理と高い発芽基準
- 5. 通販からECへ――進化する販売スタイル
- 6. 地球温暖化と未来への挑戦
- 7. 消費者へのメッセージ ――タネをカタカナで、ひっくり返すとネタ
- 編集後記
1. 190年続く“信頼”の物語


創業190周年を迎えたタキイ種苗さん。1835年の創業から今日まで、特に大切にしてきたことを教えてください。
(松本)
ありがとうございます。弊社は天保6年、1835年に京都で創業しました。近隣の農家さんへ自家用の優良なタネを余分に採って届けることから始まったのですが、当時から「お客様の信頼こそが商売の命」という考えを徹底していました。
タネは、土にまき芽が出て実って初めて品質が証明されます。だからこそ「絶対に裏切らないタネを届ける」という信条を最優先にしてきました。
初代・瀧井治三郎が掲げた「信用と信頼」は、単なるスローガンではなく190年間受け継がれてきた企業文化です。
時代が変わっても、この精神こそが農家さんや家庭菜園を楽しむ皆様から信頼をいただけている理由だと感じています。
これからも「食の安全」と「人々の健康」を守ることをゴールに、次に迎える200年を見据えて挑戦を続けていきます。




2. 桃太郎トマトとヒマワリ――挑戦が生んだ革新
タキイ種苗といえば、やはり桃太郎トマトが象徴的です。かつて子どもが嫌いな野菜の代表だったトマトを、好きな野菜へと変えた功績は大きいですね。
(松本)
その通りです。40年前、子どもが嫌いな野菜トップ3といえばトマト・ピーマン・ニンジンでした。ところが桃太郎トマトの開発によって状況は一変します。
甘みと酸味のバランスを徹底的に追求し、輸送に耐えることができる性質を備えた品種を生み出しました。
その結果、桃太郎トマトは高単価で取引され農家さんにとってはメリットがあり、消費者にとってはおいしく食べやすいトマトが全国に広がったのです。
ただし、トマトが“好きな野菜”として定着した背景には、桃太郎だけでなく業界全体で甘くておいしい品種開発が進んだことも大きな要因です。
桃太郎が先駆けとなり、その後も各地の生産者や種苗会社が甘みや食味を高めた品種を次々に生み出しました。
今、スーパーに並ぶトマトやミニトマトの多彩さは、こうした改良の積み重ねの賜物です。
私たちタキイもその一翼を担い、「嫌いを好きに変える」トマトの進化に長年取り組んできました。
花の分野では、花粉の出ないヒマワリも世界的に有名ですね。
(松本)
1996年のアトランタオリンピックの表彰式で採用された「花粉の出ないヒマワリ」は、当社を象徴するもう一つの成果です。
ヒマワリは美しい花ですが、花粉が室内や衣服などに付着するという課題がありました。
そこで「花粉が出ない、見映えのする品種を作ろう」と研究を重ね、長い年月をかけて実現しました。
現在では世界中で切り花として愛され、市場の可能性を広げることができました。農家さんからもサンリッチシリーズは「作業がしやすく、花束として扱いやすい」と好評をいただいています。






3. 伝統と最先端を融合する研究開発
研究開発ではどのような取り組みを進めているのでしょうか。
(松本)
当社は育種・研究拠点を国内外に約20カ所持ち、地域ごとの気候や土壌に合った品種を開発しています。
近年はDNAマーカー選抜を活用し、従来10年以上かかっていた育種期間を一桁年数にまで短縮できるようになりました。
DNAを解析することで「食味」「病気への耐性」「果実の大きさ」など、望む特性を早期に判別できます。ただし、遺伝子組換えやゲノム編集は、優れた特性に関する遺伝子探索などの基礎研究に限定して活用しており、それら技術を直接利用した品種の開発やその種子・苗の販売を行っておりません。
「自然の力を尊重することこそタキイの誇り」という信念のもと、伝統的な育種技術を守りつつ最先端の科学を補助的に活用しています。
これは単に保守的という意味ではなく、“安心して食べられる”という当たり前の価値を未来へ残すための挑戦なのです。


4. 妥協なき品質管理と高い発芽基準
品質管理棟及び商品管理棟での厳しい検査・管理体制に驚きました。特に発芽率の基準が非常に高いと伺っています。
(松本)
その通りです。タネは入荷から出荷まで、いくつもの検査を経ます。
形や水分量の確認、異物除去、そして最も重要なのが発芽試験です。
例えば、法律上ニンジンは55%の発芽率があれば販売できますが、私たちは社内基準を85%以上に設定しています。
農家さんや家庭菜園を楽しむ方に「タキイのタネなら安心してまける」と思っていただくためには、これくらいの厳格さが必要です。
タネは一度まけばやり直しが効かないもの。
その信頼を守るため、私たちは法律以上の品質基準を守り続けています。
5. 通販からECへ――進化する販売スタイル
通販事業も長い歴史がありますね。
(松本)
はい、通信販売は120年続いています。長くカタログ中心で、お客様は誌面を見ながらじっくり商品を選んでこられました。
近年はネット注文が増え、EC化率が年々高まっています。
若い世代はスマートフォンからの購入が自然ですし、即日発送などスピード感のある対応が求められます。
一方で、カタログを手に取りゆっくり検討したいという方も多く、紙とオンラインを並行して活かしているのが今のスタイルです。
どちらにしても大切なのは「写真や説明だけで信頼して買っていただける」こと。
そのために品種紹介の情報の充実とわかりやすい表現には、これからも力を注いでいきます。
190周年記念企画の秋タネ人気品種総選挙では、野菜のタネでダイコンが1〜3位を独占したと伺いました。
(松本)
私たちも正直驚きました。キャベツやタマネギが上位に来ると思っていたのですが、長年愛されるダイコンが圧倒的な支持を得ました。
これは、高品質な商品を長く提供してきた証であり、お客様の信頼の表れとも言えます。
一方で、若い世代へのアプローチ不足という課題も浮き彫りになりました。
今後はプランター栽培など、都市部や若年層にも響く提案を強化していきたいと考えています。
190周年の特別商品も想定以上の反響をいただき、“うれしい悲鳴”とはこのことだと実感しています。


6. 地球温暖化と未来への挑戦
近年の猛暑や気候変動にはどのように対応されていますか。
(松本)
最優先課題は耐暑性品種の開発です。
想像を超える猛暑でも栽培できる野菜を目指し、新しい栽培方法や資材の研究も同時に進めています。
従来の品種でも「このやり方なら猛暑でも栽培できる」というノウハウを確立し、農家さんに広めていきたい。
さらに機能性成分を豊富に含む品種の開発にも力を注ぎ、健康志向が高まる時代に応えたいと考えています。
これらの研究は、地球規模の気候変動に対する私たちの使命であり、未来の農業を守る挑戦だと考えています。


7. 消費者へのメッセージ ― ―“タネ”をカタカナで、ひっくり返すと“ネタ”
最後に、読者や消費者の皆様へ、190周年を迎えた今だからこそ伝えたいメッセージをお願いします。
(松本)
私たちは 「タネから始まる無限の可能性」 を信じています。
ここで大切にしているのは、“タネ”をあえてカタカナで書く ことです。
漢字の「種」ではなくカタカナの「タネ」。
それは単なる野菜や花の種子にとどまらず、より広い意味を込めたい という思いからです。
そして、このタネという言葉を ひっくり返すと「ネタ」になるんです。
“ネタ”は料理の具や話のきっかけ、ひらめきや創造の源――人それぞれが持つ“アイデアのタネ”を指します。
社員一人ひとりから生まれる小さなひらめき、消費者の皆様が心の中に秘めた夢や好奇心。その一つひとつが未来をつくる ネタ だと、私たちは考えています。
一粒のタネには、人の記憶や文化、そして未来への希望までもが詰まっています。
だからこそ、家庭菜園で野菜を育てるとき、庭に花を咲かせるとき、その体験そのものが 新しい物語を生み出すネタ になる。
私たちは、その小さな一歩を後押しする企業であり続けたいと思います。
190年という歴史は通過点にすぎません。
これまで培った技術と信頼を礎に、タネ=ネタ の可能性を皆様と一緒に育てながら、
これから進む200年、その先の未来へ、新しい感動と豊かさを届けていきます。
編集後記
(編集部)
松本部長が語った「タネをカタカナで表記し、ひっくり返すとネタになる」という言葉は、読者一人ひとりに「自分だけのタネ=ネタをまく」というメッセージとして響くだろう。タキイ種苗が190年守り続けてきた信用と情熱は、これからも人々の暮らしに新たな彩りを添えていく。


